西川伸一教授 『裁判のベテランがひとりもいない最高裁』(1) … 国民審査スペシャルインタビュー

 

 日本の裁判所では、どういうわけか、あんまり裁判をしない裁判官のほうがエリート扱いされ、人一倍の出世を重ねていくとのこと。

 すなわち、キャリアを重ねて最高裁判事に就任する裁判官というのは、裁判の現場から離れていた期間のほうが、むしろ長い、ということだ。

 裁判をやらないからエリートなのか? エリートだから裁判をしないのか?

 “裁判のベテラン”が、ひとりもいない最高裁判所の実態とは、どんなモノなのだろう。

 私の愛読書である『日本司法の逆説』著者の、大学教授にお会いして、尋ねてきました。 いろいろと。

 

 

 

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(以下、氏名表示につき敬称略)

 
 

西川伸一(にしかわ・しんいち)
 1961年、新潟県生まれ。
 1990年、明治大学大学院 政治経済学研究科 政治学専攻博士後期課程退学。
 同年、明治大学政治経済学部 専任助手。
 2005年、明治大学政治経済学部 教授。
 著書に『官僚技官 ― 霞が関の隠れたパワー』(五月書房)、『立法の中枢 知られざる官庁・新内閣法制局』(五月書房)ほか多数

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■ 政治学者が、法廷で見たモノ

 

――― 先生は国家論について研究されているということですが、

 

 西川 「はい」

 

――― 裁判所について研究しようと考えた、キッカケを聞かせていただけますか。

 

 西川 「これは……、私のまったく不徳の致すところで」

 

――― いえいえ。とんでもないです。

 

 西川 「『官僚技官』という本を刊行した後にですね、ここにも紹介した農林水産省の元役人の方から手紙が来まして、『オマエの書いていることは間違っている』と。 もっといえば、名誉毀損であると」

 

――― は……はい。

 

 西川 「でも、私のやったことは、新聞記事を引用して、典拠も示して。 それでも『オマエは全然、事実関係を確認しなかっただろう』と、そういう苦情をいただきまして。 でも、引用するとき、いちいち登場人物に確認するなんてことは、普通しませんし」

 

――― 普通しませんね。

 

 西川 「記事書いている人も、一流のライターさんだし、信用して書いたんだと。 しかし、やっぱりお叱りをいただきまして、ついては、首都圏で出ている5紙に謝罪広告を出せと。 そういう手紙が舞い込みまして」

 

――― はい。

 

 西川 「でも、私がでっちあげた記事じゃないわけですし、私としては、あれこれ言われる筋合いはないわけで、心外であると。 それで無視してたんですけど、数カ月ほど後に、東京地方裁判所から特別送達といういかめしい封書が届きまして」

 

――― そうですか。

 

 西川 「それで私は民事裁判の被告になったことを知ったわけです。これは大変なことになったということで、弁護士の方を紹介していただいて、法廷闘争になったんです」

 

――― はい。

 

 西川 「むしろ表現の自由や学問の自由の侵害だ、と言って争ったんですが、東京地裁の判決は、私の敗訴で、金100万円を払えということで、その後、高裁、最高裁まで争いましたが、結局そのまま確定しまして、法務局に供託をしたわけですが」

 

――― えぇ。

 

 西川 「そのときに、いったい裁判というのは何なんだと。 裁判官と弁護士の方がやりとりしているのが、一切私にはわからなくて。 まるで外国語ですから」

 

――― はい。

 

 西川 「後で弁護士の方に“通訳”してもらわないとわからないと。 あるいは、裁判官によるんでしょうが、法廷にパッと入ってきて、挨拶もせずに座ると。 でも、こちらは裁判官がお出ましになると『きりーつ!』という声がかかるので、反射的に立ってしまうのですが……」

 

――― そうですか(笑)

 

 西川 「何なんだ、この権威主義はと(笑)。 非常に鼻につくというか。 もっといえば官僚的だなという印象を受けて」

 

――― はい。

 

 西川 「要するに、裁判官を研究テーマにしたのは、私怨を晴らすためにですね(笑)」

 

――― いえいえ(笑)。 そうなんですね。

 

 西川 「裁判官の、特に人事面で調べてみると、行政官僚と似たようなキャリアシステムで出世していくと。 “裁判官の独立”っていわれてるのに、まさか裁判官が出世なんて、それまで何も知りませんでしたから」

 

――― はい。

 

 西川 「裁判官が官僚機構にガンジガラメにされていて、みんな“上”を見て仕事していると。 これはもしかしたら、裁判官も十分に国家論のテーマになりうるんじゃないかと思いまして、いろいろ調べて、『日本司法の逆説』という本を出したわけです」

 

――― はい。

 

 西川 「だから今では、私、訴えてきた方に非常に感謝していますね。 あのとき訴えられなかったら、こういう研究もしなかったでしょうし。 非常に視野が大きく広がりました」

 

――― ちなみに、その慰謝料の100万円というご負担は、厳しかったのではないでしょうか。

 

 西川 「何回分か忘れましたけど、6回分か10回分か忘れましたけど、分割して…… 法務局に供託するというかたちで」

 

――― そうなんですか?

 

 西川 「大学から、普段とはまた違う給与明細が送られてきまして、大変屈辱的な思いをしました(笑)」

 
 
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日本司法の逆説―最高裁事務総局の「裁判しない裁判官」たち 日本司法の逆説 ― 最高裁事務総局の「裁判しない裁判官」たち
西川 伸一

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